失敗から学ぶ ~なぜあなたの不動産投資は儲からないのか?
前回は、「融資で行き詰まり、前に進めなくなる投資家」について解説しましたが、今回は「資金繰りに窮して首が回らなくなる投資家」がテーマです。
実際に私のところには、「最近、資金繰りが苦しくなった」という方が、よくご相談にいらっしゃいます。
ご存知の方も多いでしょうが、現在、賃貸経営を取り巻く環境は厳しさを増しています。資金繰りの悪化は、この「外部環境の悪化」の影響も多分に存在します。しかし一方で純然たる自己責任、投資家自身の問題である場合も多々あります。
そこで今回は、読者の皆さんが不動産投資で致命的な失敗を犯さないため、このような「首が回らなくなった投資家」について、特徴と原因などをお伝えしようと思います。
あなたの資金繰りを圧迫する5つの要因
単純な話ですが、不動産投資で儲からないのは、収入が少ないか、支出が多いかのどちらか、もしくはその両方です。相談に来る方の症例などを見ると、資金繰りで特に注意が必要な要因は次の5つです。
1. 「賃料の下落」
建物の老朽化が進むと賃料は自然と下落します。入居者から更新時に賃料減額交渉を持ちかけられることもありますが、特に賃料下落を肌で感じやすいのは入居者の入替えがある場合です。
新たに入居者を募集する場合、新賃料は旧賃料に比べて低くなる傾向があります。特に周りに新しい物件が建ち始めると、新しい設備等と比較されてしまうため、その分だけどうしても賃料が下落してしまいます。
2. 「空室率の上昇」
空室が増えると、当然収入は落ちます。よく騒がれていることですが、人口減少、供給物件数の増加、というマイナス条件が重なり、日本各地で空室率が上昇しています。
特に地方都市ではこの空室率の上昇は顕著です。バブル期に建てられたアパート・マンションオーナーの多くが、今悲鳴を上げているのです。
対策としては、運用面での改善(内見数を上げる対策、内見者の成約率を上げる対策)と、最終手段である賃料の値下げがあります。
手間を取るか、お金を取るか、いずれにしても、一筋縄では解決しない状態に置かれている現状です。
3. 「修繕費用の増大」
修繕費用も賃貸オーナーの頭を悩ませるテーマです。
特に中古物件の場合、目に見えない損耗が多いため、オーナーチェンジで中古物件を購入した投資家は、この修繕費用に泣くことが多いものです。
多いのは水回りの不具合、エアコン、古くなると突発的な事故(水漏れなど)もあるため、ある程度の資金をプールしておく必要があります。
4. 「広告料の増大」
広告料とは、入居者募集を行なう際に、客付けしてくれた仲介業者に支払う報酬です。
昨今、全国各地で空室率が上がっています。その影響から、大家による仲介業者への営業活動が活発化してきました。その現われが、この広告料の増大です。
最近よく大家仲間の飲み会でボヤキの種になるのがこの広告料。広告料を多く積み上げて、いかに内見者数の増加を図るかが、物件の高稼働を生む一つの指標となっているところがあります。
あくまでも費用対効果の面もありますが、稼働率を考える上で重要な支出の一つですが、大家が苦しむポイントでもあります。
5. 「税金負担の増大」
実は、投資家の多くが税金が苦手です。
具体的な税金計算などは、多くの投資家が自分では出来ないものですが、とりわけ資金繰りに関してネックになるのは、デッドクロスと呼ばれる現象です。
この現象の詳しいメカニズムは別の機会に解説しますが、端的に表現すると、年々、経費化できる項目(借入金の利息・減価償却費)が減ってしまい、手取り収入(税引前CF)は変わらないのに、年々税負担が増えてしまう、という現象です。
経年により賃料が下落していくと、余計にこのインパクトは大きくなります。手取りが赤字でも税金を取られる、なんていう悲惨な話もありますので、中長期的な税務シミュレーションをつくり、資金繰りの見通しを持つことはとても大切なことです。
さて、上記5つの要因を並べてみましたが、次にこれらの要因が絡み合って誕生する貧乏な投資家の現状について解説します。
こんな投資家は儲からない 資金繰りで苦労する貧乏投資家 4つのタイプ
資金繰りで苦労している貧乏な投資家は大別すると4つのタイプがあります。
1. 節税貧乏タイプ
一番注意が必要なのがこのタイプ。高額所得者に多い傾向があります。「節税になるから」と言われて、儲からない物件を掴まされてしまうケースがほとんどです。実は、私のところに来る相談者で多いのがこのタイプです。
初めの頃は良いのですが、
①段々と賃料が下落し、空室になる期間が長くなり、収入が低くなります。
②おまけに入退去のたびにクロス張替えなどの修繕が発生し、
③古くなるにつれて設備の修繕も発生。
④さらに築古物件は入居も決まりにくいので、広告料を積み上げます。
⑤そして、デッドクロス現象が発生し、節税効果も段々と先細りになってしまいます。
まさに、前述の圧迫要因をオールスターで採用したような貧乏ぶりです。
2. 空室貧乏タイプ
このタイプは、ルーズな人と意固地な人が多いです。
ルーズな人は、物件が空室になってもあまり頓着しません。裕福な地主さんや、親から相続した家主さんなどが多いでしょうか。基本的に物件に執着心がない人、自助努力の精神が希薄な人が多いです。そして、空室が埋まらないのを管理会社のせいにしがちです。
逆に意固地な人は、高い賃料にこだわって機会損失します。このタイプは賃料の値下げを極端に嫌がります。新築時の賃料イメージが抜けない人、妙にプライドが高い人にこの傾向があります。「昔は○万円だったんだから」というのが口癖です。このタイプも比較的、空室が埋まらないのを「管理会社の動きが悪いから」と言って、人のせいにする傾向があります。確かに、安易な値下げは経営上良くありませんが、相場からかけ離れた賃料に固執し、いつまでも空室を埋めないのはナンセンスです。
空室率が高いと、修繕費や広告料も思い切って支出することが出来なくなります。ジリ貧です。あなたの賃貸経営にとって、いわばガソリンの役割を果たす賃料を、ただ毎月垂れ流しているのはもったいないですよね。
3. 修繕貧乏タイプ
このタイプは見栄っぱりな人、サービス精神旺盛な人が多いと思います。
見栄っ張りな人は、「かっこいい物件のオーナー」というステータスがほしくて、見た目のかっこよさに執念を燃やします。
サービス精神旺盛な人は、「入居者に喜んでほしい」という気持ちが前面に出て、様々な設備投資を行い、入居者満足の向上に執念を燃やします。
確かに修繕にお金をかけるのはとても大切なことで、見た目も大事、入居者満足度もとても大事です。しかし、「経営」という視点で見た場合には、そこに費用対効果というモノサシがあってしかるべきです。「ボランティア」や「ステータス」を目的として不動産投資をするのであれば、話は別ですが・・・
4. 隠れ貧乏タイプ
このタイプも実は深刻です。隠れ貧乏とは、自分の物件の資産価値がどんどん下がっているのに、全く気がついていない不動産投資家です。ここで言う資産価値とは、「固定資産評価」や「積算評価」ではなく、実際に売却が可能な「実勢価格」と考えて下さい。
「毎年、キャッシュフローが上がっているから大丈夫」と、のん気に構えていても、知らないうちにどんどん資産価値が下落している投資家はとても多いものです。
要は「資産価値を食いつぶしてキャッシュフローを得ているだけ」の状態です。全然儲かっていません。深刻なのは、普段はこの状態に気が付かないこと。そして出口を迎えるときに、初めてこの事実に直面して驚愕するのです。
それまで積みあがったキャッシュフローをきちんと貯蓄していればまだいいですが、安易に消費しているとすれば、由々しき事態です。単に無駄遣いしただけなのですから。
資産価値が相当に下落しているので、大半は残債務よりも売却価格が低くなります。そうすろと、抵当権が外せないため、売却したくても売却できない状況に陥るケースがほとんどです。売らなければならない理由があるときには、残債務を内入れで返済しなければならないので、資金繰り上、かなりのネックになります。
ちなみにこのタイプ、性格的な傾向は特にありませんが、購入前に、きちんと出口戦略を立てているか、不動産投資の全体像をきちんと理解しているかどうか、が分かれ目です。
以上、4つの貧乏タイプを解説しましたが、次に、対策についてお話しします。
貧乏な失敗投資家にならないための対策とは
これは、対策というよりも、心構えの問題です。
1. 安易な節税目的の不動産投資は慎む
節税目的の不動産投資は、高度な税務知識と不動産取引実務の知識の両方がないとうまくいきません。
出口を意識した戦略を構築する必要があるからです。「節税になるから」という理由だけで不動産投資をするのは厳に慎みましょう。
2. 空室には敏感になる
ルーズな人はお金がたまりません。不動産賃貸業の経営者ですから、数字の流れには敏感になってください。とりわけ空室に慣れてしまって、改善する意欲のない人は貧乏なままです。
管理会社にきちんと動いてもらうのも、もちろん大事ですが、オーナー自身が出来ることはないか、今一度振り返ってみることです。
是非とも空室を埋めることに執念を燃やしてください。努力は必ずあなたの経営結果に跳ね返ってきます。
3. 必要以上の修繕は慎む
賃貸経営をする以上、修繕はとても大切です。しかし、利益を求めて投資をする以上、費用対効果のモノサシは絶対に持ってください。「見栄」や「ボランティア精神」で修繕をするのは控えてください。
4. 出口をイメージできるようになるまで不動産投資は慎む
初心者は出口を意識しません。見た目のキャッシュフローばかり追いかけます。そうすると、前述の「隠れ貧乏タイプ」にはまってしまいます。
きちんと出口をイメージする力を持つまでは不動産投資を行なうのは慎んだ方が無難です。是非出口戦略の考え方を身につけてください。
5. 儲からない物件は買わない
これは究極です。誰も損すると分かっている物件に投資したりはしないでしょう。大切なのは、買う前に「買った後の状況」をイメージする力量を身につけることです。
空室も修繕も、経験や勘が働ければ、ある程度の予測が出来るものです。出口の話と一緒で、空室・修繕の予測が出来るようになるまで、不動産投資はスタートしない方がいいでしょう。
是非、自分で物件を買った後の数字の流れをイメージ出来るようになってください。
以上、今回は「資金繰りに窮して首が回らない投資家」について解説いたしました。
対策をアドバイスするとすればただ一つ。勉強と情報収集は定期的に行なうことです。不動産投資は経営なのですから。読者の皆様は、同じような失敗をしないように、今回お伝えしたことを理解し、間違いの無い不動産投資を実践してください。