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不動産コラム 不動産投資のリスクをコントロールする~経営に関するリスクとその対策(1)

不動産投資のリスクをコントロールする~経営に関するリスクとその対策(1)

前回は「資産価値の変動リスク」をお伝えしましたが、今回は「経営に関するリスク」について解説したいと思います。

投資の世界で「リスク」と言うと、もっぱら「リターンの不確実性」という意味で使われますが、不動産投資は「投資」というより「経営」の色彩が強くなります。
 
そうすると、当然に「経営」に関するリスクも存在するわけですが、このリスクが顕在化すると、単に「投資の失敗」だけでは済まされない、大きなトラブル・損失につながる可能性があります。
 
たとえば以下の2つ。
 
  • 訴訟リスク
    不動産の所有に起因する理由で第三者から訴訟提起されるリスク。損害賠償義務や、訴訟費用などが発生するほか、時間的・心理的な負担も相当なものになります。
  • 流動性リスク
    不動産の換金性が低いことに起因するリスク。不動産事業の撤退(売却)や転進(組み替え)などに大きく影響を与えます。
事実、「経営に関するリスク」は、それほど発生頻度は高くないですが、一度リスクが顕在化すると、その対応に多大な費用と労力がかかる可能性があります。もちろん、ある程度は予防が可能であるほか、一部のリスクは保険でリスク転嫁することが可能です。しかしそこには特有の注意点が存在します。
 
今回のコラムでは、「経営に関するリスク」のうち「訴訟リスク」について、その対応方法と注意点を解説いたします。
 

訴訟リスクへの対策

そもそも、あなたが不動産投資で訴訟リスクを背負う場面というのは、どのようなケースがあるでしょうか。たとえば、不動産投資の現場では、次のようなケースが挙げられると思います。
 
  • 建物の外壁タイルが落下してしまい、入居者や通行人の傷害に傷害を与えてしまった。

  • 建物の給排水設備から漏水が発生し、賃借人(入居者)の家財に損害を与えてしまった。

  • 建物のエレベーターが故障し、中にいた人が怪我をしてしまった。

これらのケースは、建物の所有・管理に起因する事由による事故です。残念ながら、所有者たるあなたに損害賠償義務が発生してしまいます。

滅多に起こらないとはいえ、このような事故が発生してしまうと、金銭面だけで得なく、時間的・心理的にも相当追い詰められることになります。被害者への謝罪、弁護士への相談、修繕費用の工面、など気が滅入ることばかりです。
 
まず一番大事なことは、このようなリスクが顕在化しないよう、しっかりと予防策を講じること。上記の例で言えば、建物設備の定期的な点検・修繕です(外壁タイル、給排水設備、エレベーター等の点検)。
 
点検を行うにはお金がかかりますが、これらは必要経費です。逆にこれらの点検を怠ったまま事故が起きてしまうと、必要な措置を講じていなかった、ということで所有者側が著しく不利な立場に追い込まれることでしょう。下手をすると刑事事件にもなりかねません。
 
ことは入居者の生命・身体にかかわる問題です。この点は是非とも怠らないよう、注意してください。
 
 

損害賠償のリスク転嫁を可能にする施設賠償保険

そして予防の他に、もうひとつ大事なことがあります。それは損害保険によるリスク転嫁です。この点について、次に概要を解説します。
 
リスク転嫁とは、「契約を通じてリスク(財産・行為およびそれに伴う法的責任)そのものを他者に移転すること」と定義できます。損害保険はリスク転嫁の代表格です。実際にリスクが顕在化した場合のインパクトを他者に転嫁することで、損害の程度を低減することが狙いとなります。
 
ちなみに上述のリスクを転嫁できるのは「施設賠償保険」です。「施設賠償保険」とは、施設(建物とそれに付随する設備)の所有・管理に起因する損害賠償事故(対人賠償事故、対物賠償事故)を補償するものです。
 
たとえば、上述の例の場合、外壁タイルにぶつかって怪我を負った通行人への治療費・慰謝料などを含めた賠償金額を損害保険でまかなうことが出来るのです。(なお、保険金を請求する際には被害者との間の示談書が必要となります。また、実際に補償される損害の範囲についても、詳しくは保険会社・保険代理店にご確認ください。)
 
いざという時に、とても頼りになる保険ですので、私もクライアントには皆さんに加入をすすめています。実際に、漏水事故で精密機械や美術品などの損害があった場合に、とても役立ったこともあります。ただし、この保険も万能ではなく、いくつか注意すべきポイントもあります。
 
  • 物損の補償範囲は時価ベース
    保険でカバーできるのは、あくまでも損害賠償義務が認められる範囲です。それを超えて被害者に賠償をしたとしても、保険ではまかないきれません。たとえば、漏水で入居者のソファー(購入時20万円)が水浸しになって買い替えるとき、保険金が下りるのは、あくまでも時価相当額です。つまり、20万円から損耗分を差し引いた分までしか支払われません。

    ※家具類等の再購入のための支出について、じゅうたん及び照明器具、衣服・履物等の消耗品については、漏水事故と相当因果関係が認められるのは、購入価格ではなく、事故当時の品物の時価ないし予定より早期に買い替え購入をしなければならなくなったことによる損害に限られる、とした判例(東京地裁 平成4年3月19日判決)。
     
  • 裁判上、補償すべき範囲は相当因果関係のある範囲
    とりわけトラブルになりやすいのは、店子から「早く直してほしい」「早く弁償してほしい」「住めないからホテル代がほしい」「外食するので食事代を払ってほしい」など雪だるま式に費用がかさんでいくことです。難しいのは、どこまでが賠償すべき義務で、どこまでが賠償不要か、その線引きだと思います。

    もちろん、個別具体的な状況にもよりますが、なかにはホテル代に加えて、その他の支出も合わせて請求される場合もあります。あくまでも事故との因果関係があるかどうか、その相当性がポイントになるようです。(宿泊先でのマッサージ料金について、因果関係を否定した判決もあります。)
     
  • あくまでも相対での示談交渉が基本
    くれぐれも誤解のないようにお願いしたいのが、保険に入れば何でも解決できる、ということではありません。施設賠償保険でカバーできるのは、あくまでも賠償費用のことで、被害者への示談交渉や謝罪の進め方などは、あくまでもあなた自身が行わなければなりません。

    この点、自動車事故は保険会社が示談交渉までサポートしてくれますが、そもそも制度・商品が違いますので、勘違いしないようにして下さい。事故は起きないに越したことはありませんが、起こってしまった際には、被害者に速やかに謝罪し、誠意ある態度を見せることが何よりも大切です。お金も大事ですが、この点、くれぐれも心に留めておいてください。

以上、今回は「経営に関するリスク」のうち、訴訟リスクへの対応について解説しましたが、ご理解いただけたでしょうか。

余談ですが、昨今では、上記の例以外にも、管理会社(保証会社)の違法な取立てに対して、滞納している入居者が大家さんを訴えるようなケースもあります。これは、管理会社に業務を委託した所有者に、使用者責任(民法第715条)を問われるケースであり、消費者保護の要請が強い昨今の風潮を見るに、今後ますますリスクは大きくなると思われます。
 
是非、最近の不動産投資をめぐる法律問題等にも注意を払ってみてください。きっと色々な難しい問題が山積しているはずです。そして頼りになる法律のアドバイザーを探しておくことも忘れないようにしてください。

次回は「経営に関するリスク」の続きで「流動性リスクへの対策」についてお伝えしたいと思います。

 

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